ベンチャーキャピタルファンドとは?〜②法律編-2(金商法)〜

弁護士の五十嵐です。

前回の記事では、LPSの基礎と、その組成方法の概要について簡単にご説明しました。

 

 

今回の記事では、LPSを組成するにあたって最大のハードルとなる、金商法上の規制についてみていきます。

GPがLPSで行う投資事業は「金融商品取引業」として原則として登録が必要となる

厄介なのは金商法の方

 

さて、前回の記事でも述べた通り、LPS法上の手続というのは面倒なだけで、やればクリアできるハードルといえます。

むしろ、実際に厄介なのは金商法上の規制の方なのです。

 

すなわち、前回の記事でも述べた通り、LPSが行う投資事業(正確にはGPが執行する投資事業)は金商法上の「金融商品取引業」に該当します。

そして、

(登録)
第二十九条 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。
とされていることから、LPSで業務を執行するGPは、内閣総理大臣の登録を受けなければならないことになります。
 
 
しかし、現実問題として金融商品取引業者として内閣総理大臣の登録を受けることは極めて難しいため、既に登録を受けているような証券会社などを除けば、LPSを組成するためにわざわざ登録を受けるという選択肢は採ることができません。
 
 

登録を不要にする例外規定

 

ではどうするのか。

実は、金商法には、金融商品取引業を行う場合であっても、登録が不要となり、届出だけすればよくなる例外規定が設けられています。

ベンチャーキャピタルファンドも、多くの場合、この例外規定をうまく使うことで、金融商品取引業の登録義務を回避しているのです。

 

 

適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)

そもそも金商法の規制が厳しいのは一般人の保護のため

 

そもそも、金商法上の金融商品取引業に対する規制がこんなにも厳しいのは、金融商品についての知識に乏しい、一般的な国民を保護するためです。

そうであるならば、金融商品についての知識が豊富なプロのみを相手にするのであれば、厳しい規制は要らないはず。

これが「適格機関投資家等特例業務」のコンセプトです。

有限責任組合員(LP)が全員「適格機関投資家等」であればよい

 

この例外規定を用いるには、LPが全員「適格機関投資家等」である必要があります。

この用語の定義はかなりわかりにくいのですが、

  1. ① 「適格機関投資家」
  2. 「等」=特例業務対象投資家
    1. ② 原則的な範囲の特例業務対象投資家
    2. ③ ベンチャーファンドの特例によって拡張された範囲の特例業務対象投資家

という、大きく分けて2種類、細かく分けて3種類の投資家を意味する概念です。

① 適格機関投資家

 

「適格機関投資家」は、上記の「適格機関投資家等」の中ではもっともプロ度の高い分類です。

「適格機関投資家」の範囲については、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」(いわゆる「定義府令」)の10条1項各号に定められています。

全てを引用すると大変な量となるため、具体的な内容については割愛しますが、

  • 銀行
  • 保険会社
  • LPS
  • 一定の要件を充たす法人
  • 一定の要件を充たす個人

などがこれに該当します。

個人でもなれるのか、と思われたかもしれませんが、有価証券を10億円以上持っていることなどの要件を要求されますので、そう簡単になることはできません。

適格機関投資家等特例業務に該当するには、この「適格機関投資家」がLPに最低1人含まれていることが必要です。

 

② 「等」=特例業務対象投資家:原則的な範囲

 

「等」とされる「特例業務対象投資家」の範囲については、金商法施行令17条の12第1項各号に列挙されています。

一 国
二 日本銀行
三 地方公共団体
四 金融商品取引業者等
五 法第二条第二項第五号若しくは第六号に掲げる権利に係る私募又は同項第五号若しくは第六号に掲げる権利を有する者が出資若しくは拠出をした金銭その他の財産について同条第八項第十五号に掲げる行為を業として行う者
六 前号に掲げる者と密接な関係を有する者として内閣府令で定める者
七 金融商品取引所に上場されている株券の発行者である会社
八 資本金の額が五千万円以上である法人
九 純資産の額(貸借対照表上の資産の額から負債の額を控除して得た額をいう。)が五千万円以上である法人
十 特別の法律により特別の設立行為をもつて設立された法人
十一 資産流動化法第二条第三項に規定する特定目的会社
十二 企業年金基金であつて、財産の状況その他の事情を勘案して内閣府令で定める要件に該当するもの
十三 外国法人
十四 財産の状況その他の事情を勘案して内閣府令で定める要件に該当する個人
十五 前各号に掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者

 

条文をそのまま引用しても4号ぐらいからは意味がわかりづらいですが、注目すべきは

  • 地方公共団体(3号)
  • 上場会社(7号)
  • 資本金額5000万円以上の法人(8号)
  • 純資産額5000万円以上の法人(9号)

あたりでしょうか。

こう言った団体は決して投資のプロとは限らないでしょうから、「適格機関投資家」と比べて(言い方は悪いですが)お金さえあれば良いという雰囲気が出てきています。

さらに、14号・15号が内閣府令でもう少し範囲を追加する旨を規定しており、ここには例えば以下のような者も「特例業務対象投資家」に当たると定められています。

  • 投資性金融資産が1億円以上と見込まれ、証券口座を開設して1年を経過している個人
    金融商品取引業等府令233条の2第3項1号)
  • 投資性金融機関が1億円以上と見込まれる法人
    (同府令233条の2第4項4号イ)
  • 投資性金融資産が1億円以上と見込まれるファンドの業務執行組合員である個人・法人
    (同ロ)

 

適格機関投資家等特例業務に該当するには、49名以内の「特例業務対象投資家」が必要です。

 

③「等」=特例業務対象投資家:ベンチャーファンドの特例により拡張される範囲

 

ここで一旦、復習も兼ねて再確認します。

上記のように、適格機関投資家等特例業務として、金融商品取引業の登録を不要とするためには、

  1. LPに1名以上の適格機関投資家がいること
  2. LPに49名以内の特例業務対象投資家がいること

が必要です。

しかし、この要件もまだまだハードルとしては高く、充たすのは容易ではありません。

そこで、金商法はさらに「ベンチャーファンドの特例」と呼ばれる例外規定を置き、ベンチャーファンドの要件を充たす場合には、この特例業務対象投資家の範囲をさらに拡張することができる旨を定めています。

 

ベンチャーファンドの要件

ベンチャーファンドの要件は、金商法施行令17条の12第2項各号及び金融商品取引業等府令233条の4各項により定められています。

(以下、施行令17条の12第2項各号の引用)

一 当該権利を有する者(以下この項において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭その他の財産を充てて行う事業が次に掲げるものであること。
イ 出資又は拠出をした金銭その他の財産の額から内閣府令で定める額を控除した額の百分の八十を超える額を充てて、株券その他の内閣府令で定める有価証券(投資を行つた時点において金融商品取引所に上場されていないものに限り、内閣府令で定めるものを除く。)に対する投資を行うものであること。
ロ 投資者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定める場合を除き、資金の借入れ又は債務の保証を行うものでないこと。
二 やむを得ない事由がある場合を除き、出資者の請求により払戻しを受けることができないこと。
三 当該権利に係る契約において、法第六十三条第九項に規定する内閣府令で定める事項が定められていること。
四 当該権利に係る契約の締結までに、出資者に対し、前三号に掲げる要件に該当する旨を記載した書面を交付すること。

 

これもまた条文をそのまま引用しても何を言っているのかさっぱりわかりませんが、ざっくり噛み砕くと以下の通りです。

  1. お金の8割超を株式や新株予約権などに投資すること(1号イ)
  2. 借金や第三者の債務の保証をしないこと(1号ロ)
  3. 原則としてファンドの持分の払い戻しができないこと(2号)
  4. ファンドの契約において、特定の事項について定められていること(4号)
  5. 出資者に上記1〜4の要件に該当する旨を記載した書面を交付すること(5号)

 

1〜3が実体としての要件、4と5が形式としての要件ですね。

 

拡張される「投資に関する知識及び経験を有する者」の範囲

上記ベンチャーファンドの要件を充たす場合には、「特例業務対象投資家」の範囲に、「投資に関する知識及び経験を有するもの」(金商法施行令17条の12第2項、金融商品取引業等府令233条の3各号)が追加されます。

追加される「投資に関する知識及び経験を有するもの」の代表的なものは以下の通りです。

  1. 上場会社または資本金・純資産額が5000万円以上で有価証券報告書を提出している法人の役員(金融商品取引業等府令233条の3第1号・2号)
  2. 投資性金融資産が1億円以上と見込まれるファンドの業務執行組合員である法人の役員(同条3号)
  3. 過去5年以内に上記1・2に該当していた者
  4. 会社の役員、従業員、コンサルタント等として、会社の設立、株式発行、財務、M&A、IPOに関する実務に従事していた者(同条7号)

 

ベンチャーファンドの特例を用いる際に追加で必要となる手続

ベンチャーファンドの特例を用いる場合には、以下の手続を追加で行う必要があります。

  1. 特定の事項を定めた契約書の写しを所管金融庁長官等に提出すること(金商法63条9項、同施行令17条の13の2)
  2. 適格機関投資家等特例業務の届出書に以下の事項を記載すること(金融商品取引業等府令238条2号・3号)
    1. ベンチャーファンドの特例を用いる旨
    2. ファンドの会計監査を行う公認会計士または監査法人の名称等
  3. 特例業務届出者が、ファンドの財務諸表等及び監査報告書の写しを事業報告書に添付して所管金融庁等に提出すること(同府令246条の3第1項)

 

その他の要件

 

その他、適格機関投資家等特例業務の要件を充たすためには、LPに不適格投資家(金商法63条1項1号イからハ)が含まれていないことなどの要件を充たす必要があります。

その詳細については細かくなるので、本稿では割愛します。

 

行為規制

 

特例業務届出者には、誠実義務や名義貸しの禁止、広告規制、虚偽告知の禁止など、一定の行為規制が課せられます。

この詳細についても本稿では割愛します。

 

まとめ

 

だいぶ長くなりましたが、これまでの流れを再度振り返ります。

大原則:LPSのGPは原則として金融商品取引業の登録が必要

 

GPが行う行為は金融商品取引業に該当しますので、内閣総理大臣の登録が必要です。

例外:LPが全員プロなら登録不要で届出のみでOK

 

しかし、例外としてLPが全員プロであるならば、GPは金融商品取引業者としての登録が不要となり、届出だけですむことになります。

プロ向けファンド=適格機関投資家等特例業務として、金融商品取引業の登録を不要とするためには、

  1. LPに1名以上の適格機関投資家がいること
  2. LPに49名以内の特例業務対象投資家がいること
    ※ベンチャーファンドの特例で拡張可

 

が必要です。

 

以上、大変長くなりましたが、LPS組成にあたっての最大のハードル、金商法についての解説でした。

次回は、LPS契約について解説したいと思います。

 

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